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お役立ち記事

マンション理事長の解任|理事会決議で足りる場合と裁判所への解任請求

公開日: 2026-07-19 / 更新日: 2026-07-19

「理事長が独断で物事を進めてしまう」「管理会社との契約を勝手に変えられた」「説明を求めても応じない」——理事長との対立は、管理組合で最も深刻化しやすいトラブルです。このとき多くの方が「解任するには総会を開くしかない」と考えます。しかし、標準管理規約に沿った組合であれば、理事長の職を解くだけなら理事会の決議で足ります。

この記事では、解任の手続を条文に基づいて3つの段階に分けて整理します。理事長の業務範囲そのものについては「マンション理事長の仕事」で扱っているため、本記事は解任手続に絞ります。

※本記事は執筆時点(2026年)の条文に基づく一般的な情報です。実際に紛争化している場合は、弁護士等の専門家にご相談ください。

前提:理事長には「2つの地位」がある

解任を考えるとき、最初に理解すべき構造です。理事長は、次の2つの地位を同時に持っています。

地位誰が選ぶか根拠
理事(役員としての地位)総会の決議標準管理規約第35条第2項
理事長(理事の中の役職)理事会の決議標準管理規約第35条第3項

条文を見てみます。

2 理事及び監事は、総会の決議によって、組合員のうちから選任し、又は解任する。
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事会の決議によって、理事のうちから選任し、又は解任する。

——マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)令和7年改正版 第35条第2項・第3項

つまり「理事長を選ぶのは理事会」です。選ぶのが理事会なら、解くのも理事会ということになります。

理事長の地位と理事の地位の2層構造。理事は総会決議で選任・解任され、その中の理事長という役職は理事会決議で選任・解任される。理事会決議で外せるのは理事長の役職の層だけで理事の地位は残ることを示す図
理事会決議で外せるのは「理事長」の役職だけ。「理事」の地位は残る

方法1:理事会決議で理事長職を解く(最も現実的)

総会を待つ必要はない

理事長の職を解くだけであれば、理事会の決議で足ります。総会の招集も、区分所有者全体の多数決も不要です。理事会は理事の半数以上の出席で成立し、議事は出席理事の過半数で決します(標準管理規約第53条第1項)。理事の中で過半数を取れるかどうかが勝負どころになります。

これは実務上きわめて重要です。総会を開くには招集通知の期間や議案書の準備が必要で、緊急性のある事態には間に合いません。一方、理事会であれば短期間で開催できます。

ただし「理事」のままは残る

注意点として、理事会決議で解けるのは理事長という役職だけです。その人は理事としては引き続き在任します。理事の地位まで失わせるには、次の総会決議が必要になります。

やりたいこと必要な手続
理事長の役職から外す理事会の決議
理事の地位からも外す総会の決議
管理組合の運営から完全に排除する総会決議(理事の解任)

多くのケースでは、理事長職を解けば実害は止まります。理事長は管理組合を代表し、契約や対外的な行為を行う立場だからです。まず理事会決議で職を解き、理事としての扱いは次の総会で判断する、という順序が現実的です。

解任しても「すぐ空席」にはならない

3 任期の満了又は辞任によって退任する役員は、後任の役員が就任するまでの間引き続きその職務を行う

——標準管理規約第36条第3項

この規定は「任期満了・辞任」を対象としていますが、解任後に誰も理事長がいない状態を作らないことが実務上重要です。理事会で理事長を解任する際は、同じ理事会で後任の理事長を選任する議案までセットで用意してください。

解任してもすぐ空席にならない図。誤った理解では解任後に理事長不在の空白ができるが、正しくは退任する役員は後任が就任するまで職務を継続するため空白ができないことを示すタイムライン図
理事長を解任しても、後任が決まるまでは職務が継続するため空白は生じない

理事長は区分所有法上の管理者であり(標準管理規約第38条第2項「理事長は、区分所有法に定める管理者とする」)、不在期間が生じると各種の対外手続が止まります。

方法2:総会決議で理事の地位を解く

理事そのものを解任する場合は総会決議です。

2 理事及び監事は、総会の決議によって、組合員のうちから選任し、又は解任する。

——標準管理規約第35条第2項

区分所有法も、管理者について同趣旨を定めています。

区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。

——建物の区分所有等に関する法律 第25条第1項

総会を開くには

理事長が総会の招集に応じない場合が問題になります。区分所有法は、区分所有者からの招集請求を認めています。

区分所有者(議決権を有しないものを除く。)の五分の一以上の者であつて議決権の五分の一以上を有するものは、管理者に対し、会議の目的たる事項を示して、集会の招集を請求することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。

——同法 第34条第3項

5分の1以上(規約で引き下げ可能)の賛同を集めれば、理事長に総会招集を請求できます。理事長が応じない場合、請求した区分所有者自身が招集できる仕組みも同条に定められています。決議要件については「マンション総会の定足数と決議要件」も参照してください。

方法3:裁判所に解任を請求する(少数でも使える)

多数派を形成できない場合の手段です。ここが本記事で最も重要な部分です。

2 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。

——同法 第25条第2項

解任手続の選択フロー。理事の過半数を取れるなら理事会決議で理事長職を解き、総会で多数を取れるなら総会決議で理事を解任し、多数派を取れないが不正な行為等があれば各区分所有者が単独で裁判所に解任請求できることを示す図
状況に応じた解任手続の選び方

「各区分所有者」=1人でも請求できる

この条文の要点は、「各区分所有者」という文言です。総会決議も、他の区分所有者の同意も要りません。区分所有者が単独で裁判所に請求できます。 多数派を握られていて理事会でも総会でも勝てない、という状況で使える唯一の手段です。

要件は「不正な行為」または「職務を行うに適しない事情」

ただしハードルはあります。条文が求めるのは次のいずれかです。

「気に入らない」「方針が合わない」では足りません。条文はこれらの語を定義しておらず、個別の事情に応じて裁判所が判断します

請求する前に証拠を保全する

裁判所への請求を検討する段階では、主張を裏づける資料が要ります。

集めるもの理由
総会・理事会の議事録決議を経ずに実行された行為の立証
会計帳簿・出納記録支出の適正性の確認
管理会社との契約書・見積書契約変更の経緯
理事長宛の質問書と回答(または無回答の記録)説明義務の不履行
掲示物・配布物組合員への説明内容

議事録や会計資料は、区分所有法上の閲覧請求で入手できる場合があります。閲覧を正当な理由なく拒むこと自体が過料の対象である点も押さえておいてください。

「解任」以外に検討すべき選択肢

解任は最終手段です。その手前で使える仕組みがあります。

監事による牽制

見落とされがちですが、監事には理事の業務を監査する権限があります。理事会の運営に問題があるとき、監事が機能すれば解任まで至らずに是正できる場合があります(「マンション管理組合の監事の役割」)。

利益相反取引の承認手続

理事長が自己または第三者の利益のために管理組合と取引しようとする場合、標準管理規約第37条の2は理事会での重要事実の開示と承認を求めています。この手続を経ていない取引は、それ自体が問題を指摘する足がかりになります。

代理権の制限には限界がある

「理事長の権限を規約で縛る」という発想もありますが、条文上の限界があります。

3 管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない

——区分所有法第26条第3項

内部で権限を制限しても、事情を知らない取引相手には主張できません。対外的な被害を止めるには、権限を縛るより地位から外す方が確実です。

欠格事由に該当する場合は自動的に地位を失う

解任手続を経るまでもなく、地位を失う場合があります。

第36条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、役員となることができない。
一 破産者で復権を得ない者
二 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
三 暴力団員等(暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者をいう。)

——標準管理規約第36条の2

また、役員が組合員でなくなった場合(住戸を売却した場合など)は、その時点で地位を失います(標準管理規約第36条第4項)。

手続の選び方

状況取るべき手続根拠
理事の過半数を取れる理事会決議で理事長職を解く標準管理規約第35条第3項
総会で多数を取れる総会決議で理事を解任標準管理規約第35条第2項/区分所有法第25条第1項
総会を開いてもらえない区分所有者5分の1以上で招集請求区分所有法第34条第3項
多数派を取れないが不正がある裁判所に解任請求(1人でも可)区分所有法第25条第2項
売却して組合員でなくなった手続不要(地位を失う)標準管理規約第36条第4項

まとめ

誤解正しい理解
理事長の解任には必ず総会が必要理事長職を解くだけなら理事会決議で足りる(標準管理規約第35条第3項)
理事会で解任すれば組合から排除できる理事の地位は残る。外すには総会決議が必要
少数派には打つ手がない各区分所有者が単独で裁判所に解任請求できる(区分所有法第25条第2項)
規約で権限を縛れば被害を防げる代理権の制限は善意の第三者に対抗できない(同法第26条第3項)
解任すれば即座に理事長不在になる後任選任をセットで議案化する。理事長=区分所有法上の管理者

対立が深まってからでは、資料の入手すら難しくなります。議事録・会計資料が誰でも確認できる状態を平時から作っておくことが、こうした事態への最善の備えです。総会・理事会の運営全体の進め方は「マンション理事会の進め方」もあわせてご覧ください。

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