マンション議事録の保管・署名・閲覧請求|区分所有法の義務と20万円以下の過料
公開日: 2026-07-19 / 更新日: 2026-07-19
議事録は「書いて終わり」ではありません。作成・署名・保管・閲覧対応まで含めて法律上の義務であり、怠ると20万円以下の過料の対象になります。この記事では、条文を直接引用しながら正確に整理します。書式や記載内容そのものについては「マンション議事録の書き方」で扱っているため、本記事は法的義務と実務対応に絞ります。
※本記事は執筆時点(2026年)の条文に基づく一般的な情報です。個別の紛争が生じている場合は弁護士等の専門家にご相談ください。
実務では次のような誤解が広く残っています。
- 「議事録には署名と押印が必要」→ 押印は条文上求められていません
- 「保管期間は10年」→ 法令上の定めはありません
- 「理事会議事録も総会議事録と同じ扱い」→ 義務の根拠も範囲も異なります
- 「罰則は区分所有法第71条」→ 改正により現在は第91条です
総会議事録は「法律上の義務」、理事会議事録は「規約上の義務」
まず押さえるべき最重要ポイントです。両者は義務の根拠が違います。
| 総会(集会)の議事録 | 理事会の議事録 | |
|---|---|---|
| 義務の根拠 | 区分所有法第42条(法律) | 管理規約(標準管理規約第53条第4項) |
| 作成義務者 | 議長 | 議長(=通常は理事長) |
| 署名する人 | 議長+出席区分所有者2人 | 議長+出席理事2人 |
| 保管場所の掲示 | 必要 | 不要(準用から除外) |
| 過料の対象 | なる | 法律上の直接の対象ではない |
区分所有法が定めているのは集会(=総会)の議事録です。理事会の議事録は法律に直接の規定がなく、標準管理規約が総会議事録の規定を準用する形をとっています。ただし「理事会議事録は法律の義務ではないから作らなくてよい」ということにはなりません。規約に定められていれば規約上の義務であり、作成しなければ規約違反です。
区分所有法が定める議事録のルール
作成義務(第42条第1項・第2項)
集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、又は記録しなければならない。——建物の区分所有等に関する法律 第42条第1項・第2項
条文が求めているのは「議事の経過の要領及びその結果」です。逐語的な発言録は求められていません。
署名(第42条第3項)— 押印は不要
前項の場合において、議事録が書面で作成されているときは、議長及び集会に出席した区分所有者の二人がこれに署名しなければならない。
——同法 第42条第3項
条文の文言は「署名しなければならない」であり、押印を求める記載はありません。標準管理規約第49条第2項も同じく「署名しなければならない」とだけ定めています。「署名押印が必要」と説明する情報は少なくありませんが、条文上の要件ではありません。組合の慣行として押印を続けること自体は問題ありませんが、押印がないことを理由に議事録の効力を否定することはできません。
電磁的記録の場合(第42条第4項)
第二項の場合において、議事録が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報については、議長及び集会に出席した区分所有者の二人が行う法務省令で定める署名に代わる措置を執らなければならない。
——同法 第42条第4項
標準管理規約(電磁的方法が利用可能な場合)の第49条第4項は、これを電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律第2条第1項)と具体化しています。つまり、議事録を電子化する場合、単にPDFにするだけでは足りず、電子署名の仕組みが必要です。ここは電子化を進める際の実務的なハードルになります。
保管・閲覧の義務
第42条第5項は、規約の保管・閲覧を定めた第33条を議事録に準用しています。したがって議事録にも次の義務がかかります。
誰が保管するか
規約は、管理者が保管しなければならない。ただし、管理者がないときは、建物を使用している区分所有者又はその代理人で規約又は集会の決議で定めるものが保管しなければならない。
——同法 第33条第1項
管理者=標準管理規約では理事長です。理事長が代わっても、議事録は引き継がれなければなりません。 実務では、この引き継ぎが最も抜けやすいポイントです。
閲覧を拒めるのは「正当な理由がある場合」だけ
前項の規定により規約を保管する者は、利害関係人の請求があつたときは、正当な理由がある場合を除いて、規約の閲覧(中略)を拒んではならない。
——同法 第33条第2項
ここで注意すべき点が2つあります。
① 請求できるのは「利害関係人」
区分所有者はもちろん、賃借人、抵当権者、売買を検討している買主なども利害関係人になり得ます。「組合員ではないから」という理由だけで一律に拒むことはできません。
② 拒否できるのは「正当な理由」がある場合のみ
条文は「正当な理由」の中身を定義していません。一般に、嫌がらせ目的が明白な場合や、業務に著しい支障が生じる時間帯の請求などが想定されますが、「見せたくないから」は正当な理由になりません。
なお標準管理規約第49条第3項は、閲覧に応じる際に「相当の日時、場所等を指定することができる」としています。即時対応の義務はないので、落ち着いて日程を調整して構いません。
保管場所の掲示(第33条第4項)
規約の保管場所は、建物内の見やすい場所に掲示しなければならない。
——同法 第33条第4項
これも議事録に準用されます。掲示板に「議事録の保管場所」を掲示していない組合は、この時点で条文違反です。実施できていない組合が非常に多い項目なので、確認をおすすめします。ただし前述のとおり、理事会議事録については標準管理規約が掲示の項を準用から除外しています(第53条第4項)。掲示が必要なのは総会議事録です。
保管期間に法令上の定めはない
「議事録の保管期間は何年ですか」という質問は多いのですが、区分所有法にも標準管理規約にも保管期間の定めはありません。会社法が株主総会議事録について10年の保管を定めているため混同されがちですが、区分所有法には対応する規定がありません。
実務上は永年保管が前提
期間の定めがないということは、「捨ててよい期限がない」ということです。加えて、次の理由から永年保管が実質的な前提になります。
| 場面 | 過去の議事録が必要になる理由 |
|---|---|
| 大規模修繕 | 過去の修繕履歴・決議内容の確認 |
| 管理規約の解釈争い | 制定・改正時の議論の経緯 |
| 訴訟・調停 | 決議の有効性の立証 |
| 管理会社の変更 | 契約経緯・過去の合意事項の確認 |
| 売買・重要事項説明 | 買主・仲介業者からの照会対応 |
紙の議事録は保管場所の確保と劣化が問題になります。電子化する場合は、前述のとおり電子署名の要否を確認したうえで進めてください。
違反すると20万円以下の過料(第91条)
罰則規定です。改正により条番号が変わっているため、古い情報を参照している場合は注意してください。現行法では第91条です。
次の各号のいずれかに該当する場合には、その行為をした管理者、理事、規約を保管する者、議長又は清算人は、二十万円以下の過料に処する。
——同法 第91条
議事録に関係する号を整理すると次のとおりです。
| 号 | 過料の対象となる行為 |
|---|---|
| 第一号 | 議事録の保管をしなかったとき |
| 第二号 | 正当な理由がないのに閲覧を拒んだとき |
| 第三号 | 議事録を作成しない/記載すべき事項を記載しない/虚偽の記載をしたとき |
重要なのは、過料を科されるのが管理組合という団体ではなく、「その行為をした管理者、理事、規約を保管する者、議長」=個人である点です。つまり、理事長個人が過料の対象になり得ます。輪番制で就任した理事長にとっては見過ごせないリスクであり、議事録の運用ルールを組合として整えておくことが、役員個人を守ることにもつながります。
実務チェックリスト
自分の組合の運用が条文を満たしているか確認してください。
| 確認項目 | 根拠 |
|---|---|
| 総会のたびに議事録を作成しているか | 法第42条第1項 |
| 議事の経過の要領と結果が書かれているか | 法第42条第2項 |
| 議長+出席区分所有者2人が署名しているか | 法第42条第3項 |
| 理事長が議事録を保管しているか | 法第33条第1項(準用) |
| 議事録の保管場所を掲示板に掲示しているか | 法第33条第4項(準用) |
| 閲覧請求への対応手順を決めてあるか | 法第33条第2項(準用) |
| 理事長交代時に議事録を引き継いでいるか | 実務 |
| 理事会議事録も規約どおり作成・署名しているか | 標準管理規約第53条第4項 |
特に保管場所の掲示と理事長交代時の引き継ぎは、抜けている組合が多い項目です。
よくある誤解の整理
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 署名と押印が必要 | 条文は「署名」のみ。押印は要件ではない |
| 保管期間は10年 | 法令上の定めはない。会社法の規定との混同 |
| 罰則は第71条 | 改正により現行は第91条。20万円以下の過料 |
| 組合員以外には見せなくてよい | 請求できるのは「利害関係人」。賃借人等も含まれ得る |
| 閲覧請求には即座に応じる義務がある | 「相当の日時、場所等を指定」できる(標準管理規約第49条第3項) |
| 理事会議事録も掲示が必要 | 掲示の項は準用から除外されている |
| 過料は管理組合が払う | 「行為をした管理者、理事、議長」=個人が対象 |
まとめ
議事録は、作成・署名・保管・閲覧対応まで含めて法律上の義務です。特に次の3点は、多くの組合で運用が追いついていません。
- 保管場所の掲示(法第33条第4項・準用)— 掲示していない組合が多い
- 理事長交代時の引き継ぎ — 輪番制では毎年発生する
- 閲覧請求への対応手順 — 決めていないと個別判断になり、拒否が過料につながり得る
いずれも仕組み化してしまえば負担は小さく、放置すると役員個人がリスクを負います。総会・理事会の運営全体の進め方は「マンション理事会の進め方」も参考にしてください。改正区分所有法全体の動向は「区分所有法の改正動向」、総会当日の流れは「マンション総会当日の流れと進め方」もあわせてご覧ください。
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